「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第57話

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領主の館訪問編
<領主との接見 1>



 カロッサ子爵の館の1階の端にある客間。ここに通されてから大体一時間ほど経ち、アルフィンたちがそろそろ退屈を覚え始めた頃、

 コンコンコン

 口数も少なくなり、静寂が場を支配する事が多くなった部屋の中にノックの音がこだました。

 「どうぞ」

 そのノックの音に反応し、ギャリソンが扉の前まで移動して声をかける。すると、その言葉に呼応したかのように静かに扉が開き、先ほどこの客間まで案内してくれたメイドが入ってくた。そして彼女は部屋の中を見渡し、アルフィンの姿を見つけるとそちらに向かって丁寧に一礼をしてから口を開く。

 「アルフィン様、都市国家イングウェンザーの方々、大変お待たせしましております。カロッサ子爵の状態が安定され、イングウェンザーの方々を御出迎えする準備が整いました。御案内致しますので、移動の御準備を御願いします。私は外で控えておりますので、御用意が御出来になりましたら御声を御掛けください」

 メイドはそう言うともう一度、今度は全員に視線を向けた後に一礼をして外へ出て行った。

 「へぇ、そのまま案内されるのかと思ったけど準備の時間をくれるのね」

 この手の事に見識がない私が準備の時間を与えられた事に驚いて独り言を口に出すと、それを耳にしたギャリソンが説明をしてくれた。

 「アルフィン様、客間に通されて数分ならばともかく、これだけの時間を待たされたのです。位の下の者相手ならともかく、待たされている者が同格や目上の者だった場合、準備が出来たからと部屋に遣わされた者が相手に時間を与えずに案内をするなどと言う事が行われたとしたら、それはその館の主にこちらが侮られていると捉えられてもおかしくは無いとても失礼な行為になります」

 なるほどねぇ。ならこれは私たちがこの館の主人に丁重に持て成されていると言う証拠なのか。うん、と言う事は領主側は少なくとも私たちが一国の代表であると信じてくれているみたいね。

 「解ったわ。それでは何時までもお待たせしては領主様にも悪いし、急ぎ用意をして出向くとしましょう」
 「畏まりました、アルフィン様」

 と言っても、特に用意する事など何も無い。とりあえず私とシャイナ、カルロッテさんの服装やヘアメイクに乱れがないかだけヨウコたちに見てもらい、カップに口をつけたり時間がたって食べてしまった紅を唇に引きなおした所で準備はすべて終了。ギャリソンがメイドに声をかけて領主の部屋まで案内をしてもらう事になった。



 案外遠いのね。いや待てよ。さっきあれほど取り乱していたのだから、万が一また騒ぎ出した時にその声が届かないよう、わざわざ領主の部屋から遠い場所に部屋を用意して私たちを案内をしたと考えるのが妥当か。

 館と一口に言っても、ここはかなり大きなお屋敷だ。一番端の部屋から反対側の端の部屋まで続く廊下は50メートル程あり、私たちが通された客間は館正面から向かって左端の部屋。そして領主の部屋はと言うと、館の中央にある玄関前のエントランス正面に設置されている大きな階段を上がり、2階の私たちが居た部屋の反対側にあたる右側にあると言う。

 なるほど、これほど離れていれば例え大声を出したとしてもその声が私たちに聞こえる事はけして無い。その事を配慮してこの部屋を用意したとなると(配置から見て疑う余地無し。間違いなく配慮したのだと思う)この館のメイドさんはかなり優秀なのだろう。

 うちのメイドたちにも見習わせたいくらいね。

 そう感心しているうちに私たちは大きな両開きの扉の前にたどり着いた。
 すると先頭を歩いていたメイドが立ち止まり、私たちの方に振り返って一礼した後、その扉をノックする。そのノックの音に反応したのであろう、中から先ほど錯乱した領主らしき人の横に居た騎士が部屋の中から姿を現した。


 「リュハネン様、都市国家イングウェンザーの方々をお連れしました」
 「ご苦労」

 そう言うと、リュハネンと言う騎士はこちらに向き直り、最敬礼をしてからこちらに声をかける。
 そんな彼の所作を見て「一国の支配者を迎えるとは言え最敬礼で迎えるなんてちょっと仰々しいわねぇ」なんて思っていた私に、彼の口からとんでもない爆弾が投下された。

 「アルフィン姫様、都市国家イングウェンザーの方々、ようこそ御越し下しました。私はカロッサ子爵の元で筆頭騎士を勤めさせて頂いているアンドレアス・ミラ・リュハネンと申すものです。以後お見知りおきを。ささ、中で子爵がお待ちです。どうぞこちらへ」

 ピクッ!

 初対面の人に名乗られたのだからこの場合、いくら支配者ロールプレイ中だとしてもこちらからも何かしらリアクションをすべきだったのだろう。でも私はその前の言葉でそれどころではなくなってしまっていた。

 へっ、姫? 姫って、もしかして私の事!?
 その言葉に思わず顔が熱くなり、同時に少し引きつる。確かに外見からするとまだ姫と呼ばれてもおかしくない年齢だろう。でも私は支配者と名乗ったよね? なら女王じゃないの? あっいや、女王様と呼ばれたい訳じゃないのよ。と言うか、アルフィン女王様なんて呼ばれたらその方が嫌かも知れないけど・・・でも姫って。

 後ろで必死に笑いをこらえている気配がする。シャイナだな。うう、本当ならここで怒鳴りつけてやりたい所だけど人前だし・・・。とっとにかく、ここはちゃんと訂正をしないと。

 そう思っていたのだけれど、姫と言う言葉に怯んでいる時間が長過ぎた為か、

 「どうなされましたか? アルフィン姫様。どうぞこちらへ」

 そう、騎士さんに促されてしまって訂正する暇がなくなってしまった。
 仕方がない。確かに領主を待たせる訳にはいかないし、ここは指示に従って部屋に入る事にして訂正するのは後にしよう。

 「失礼、少し呆けてしまいました。それでは参りましょう」

 私はそう言うと、中に足を踏み入れる。すると部屋の中央に置かれた執務机の前、その場所には恭しく傅いている貴族らしき服装の壮年の男の人がいた。その光景を見て今度はリュハネンと言う騎士の顔が引きつる事になる。

 それはそうだろう。
 私は”一応”女性だし、一国の王で位としては上と言う事になっているので挨拶のキスを手の甲にする為に傅いたと言うなら解る。でも、いくら相手が他国の支配者だとしても、貴族でありその土地を治める領主と言う立場にある者が迎え入れる段階で既に跪いるなんて事は前代未聞の話だ。これではまるで臣下の者が王を迎え入れているみたいじゃないの。

 慌てて駆け寄るリュハネンさん。当然傅いている領主を立たせようとするのだけど、そんな彼に子爵は「何を言っているのだ?」と言うような顔をして変な事を言い出した。

 「何をなさっているのですか、子爵!?」
 「しかしアンドレアスよ、相手は女神様だぞ」

 へっ? 女神様って、もしかしてまだ錯乱してるの? なによ、まだ少しも落ち着いてないじゃない。さっき筆頭騎士も私のことを姫と呼んでいたし、この人たちは一体何を考えているの?

 そう思っている私を尻目に、目の前の主従は小さな、しかし同じ部屋の中に居る私たちに隠し切れない程度の声で語り合う。

 「子爵、先ほどありのままの姿でお持て成しすると言う話になったではないですか」
 「だからありのままだろう。女神様を前に跪くのは神の信徒である我々からしたら当たり前の事。そなたでも教会で神を前にしたら跪くであろう」
 「確かにそうですが・・・」

 ん? なんか会話がおかしくない? この騎士さん、領主が傅いている事は止めているようだけど、私が女神様だと言う部分に関してはまるで否定していないように聞こえるのだけど?

 「子爵、確かにアルフィン姫様は女神様であらせられます。ですが、子爵がこのような状態ではお話をする事も適いません。女神様を困らせるのは子爵の本意ではないでしょう」

 騎士の言葉に先ほどの考えた疑問が正しかったと、再度驚かされる。

 えっ? 本当に否定しないの!? この騎士さんまで私を女神様と疑う事もなく信じているって事? いえ、流石にそんな筈は無いわ。きっと錯乱している領主を刺激しないようにあんな言い方をしているのよね? でもあの顔は本気で思っている事を語っているようにしか見えないし・・・なぜ、なぜこんな事に?

 私の混乱をよそに、リュハネンさんの言葉に納得した領主が私に向かって話しかけてきた。

 「ああ、そうだな。確かにそうだ。アルフィン様、女神様であらせられるあなた様の御言葉を本来ならば跪いて拝聴するのが神の信徒として正しい姿でなのでしょう。しかしこのままの姿ではアルフィン様が望まれている会談と言う形式を取る事はできません。ですから失礼は承知の上で普通に相対しても宜しいでしょうか?」
 「領主殿、少々お待ちください」

 この状態は異常よ。とにかく何とか私が女神であると言うこの主従の勘違いをどうにかしないと。そう考えていたら、私の後ろに控えていたギャリソンが子爵に声をかけた。よかった、ギャリソンならこの間違いをちゃんと訂正してくれるわよね。

 「創造主であり我らが神であらせられますアルフィン様からの御言葉は、本来傅いて拝聴するのが当たり前の事です。それをアルフィン様から御指示頂いたのならともかく、下の者からそのような申し出をするのはいかがなものかと私は思いますよ」

 そう言って優しい笑顔を領主に向けるギャリソン。
 おいそこ! 勘違いを助長させてどうするのよ。それに紅薔薇隊も、ギャリソンの言っている事がさも当然と言わんばかりに頷いているんじゃない!

 「まぁまぁ、ギャリソン。話が進まないからそこは置いておきましょう。彼の言う通り、この傅いた体勢のままではアルフィンも話し辛いでしょうし」
 「解りました。シャイナ様がそう仰るのでしたら、ここは引くといたします」

 シャイナぁ! あなたまで何を一緒になって言ってるのよ。て言うかあなた、どう考えても面白がってるでしょ。肩が震えているわよ! カルロッテさんも後ろで「アルフィン様は女神様でしたの。道理で」なんて小声で呟かない! そんな訳無いでしょ。

 「おお、ありがとうございます、シャイナ様。それでは女神様の御前ですが失礼をして立ち上がらせて頂きます」

 そう言うと領主は立ち上がった。私に訂正させる暇さえ与えずに。
 だめぢゃん。これじゃあ、私が女神様であると言う事を認めたみたいじゃないの。このままではいけない、何とか否定しないと。なんて思ってはいるんだけど、続いてい領主が自己紹介を始めてしまったのでそれを遮ってまで否定する訳にもいかず、黙るしかなくなってしまった。

 「御初に御目にかかります。バハルス帝国貴族であり、この周辺を納めさせていただいております、エルンスト・ケヴィン・ランベ・カロッサと申します。本日はアルフィン様に御目にかかる事が出来、まことに光栄の極みでございます」
 「都市国家イングウェンザーの支配者、アルフィンです。こちらこそ御会いできて光栄ですわ、子爵様」

 アルフィンはそう言うとスカートの裾をつまみ、少しだけ屈んで礼をする。この仕草に関しては何時館を訪問してもいい様に、メルヴァやギャリソンを前に何度も練習したからおかしい所はないだろう。しかし、私のそんな仕草に主従が慌てだした。騎士は片膝を付き、子爵など傅くを通り越して平伏してしまっている。

 「そんな! アルフィン様に礼をして頂くなどと、そんな恐れ多い」
 「えっ、あっ、いえ」

 あまりの光景につい訳の解らない言葉を発してしまった。大体いきなり土下座をされて、私にどうしろって言うのよ。それもいかにも身分が高そうな人によ。それに毎度毎度このような対応をされては本当に話が先に進まないわ。

 「ちょっと待ってください、一体何がどうなって私が女神と言う事になっているのですか?」
 「アルフィン様が創造主であり、神でもあると言うのは誰もが知る事実です」
 「ギャリソン、あなたはちょっと黙っていてくれるかしら?」

 またも当然とばかりに頷く紅薔薇隊を一睨みした後、ギャリソンを窘める。後シャイナ、何一緒になってうなずいてるのよ。まさかあなたまで私が女神様だなんて本当に思っている訳じゃないわよね? ・・・違うわよ、ね?

 とっとにかく、このまま私が女神様であると言う共通認識が生まれてしまうのは不味い。少なくとも、どうして領主がここまで私の事を女神様であると深く信じ込んでしまったのかだけは確かめないと。そう思って、いまだ平伏している子爵に声をかけた。

 「もう一度御聞きします。なぜあなたは私を女神だと認識なされたのですか?」
 「はい。あなた様がいくらその御力を御隠しになろうといたしましても、私の生まれ持った異能『タレント』の力により、この目にははっきりと見えているのです。その神々しい、大いなる神の御力が」

 タレント? 何それ?
 そう思ってギャリソンの方を振り向いてみたけど、どうやら彼も初めて聞く単語だったらしく小さく首を振った。頼りのギャリソンが知らないのなら仕方が無いわね。知らないと告げるのはちょっと恥ずかしい気もするけど、本人から聞くしかないか。

 「ごめんなさい。私は聞いた事がないし私の国にも存在しない力みたいなんだけど、そのタレントと言うのはどういうものなの?」
 「はい、タレントと言うのは人が生まれた時にまれに授かる異能の事です。これには色々な種類があり、私は相手が神にどれだけ愛され、その力を授かっているかをその者が放つ光の強さで計る事ができるのです」

 ああ、なるほど。それで私が強い信仰系マジックキャスターと解ったのか。ん? でもそれだとあくまで強い力を持った人というだけで神様にはならないんじゃないの?

 「それで私に強い力があると解ったわけね。でも、それはあくまで強い力があると言うだけでしょ? 別に神様と言う事にはならないと私は思うのだけど」
 「いえ、あなた様から溢れ出すそのこの世の全てをも飲み込むほどの光の奔流、そしてその光から溢れる安らぎを与える慈愛の心。私はこの力で我が国の帝都に居る大神官たちの光を見た事がありますが、彼らはあくまで人の範疇で強い光を放っているだけでした。しかしあなた様は違います。この力を目にした事により、あなた様が人の域を遥かに超えて神の愛の力を授かっていると言う事を、そう、地上に光臨なされた女神様であると言う事を理解できたのです」

 そう言えばエルシモさんから言われたっけ。この世界で一番の魔法使いでさえ最高は6位階までしか使えないって。それが私は10位階どころか、その上の超位魔法さえ使えるのよね。そんな力を見せられたら人でないと思われても仕方がないか。でも失敗したなぁ。探知される可能性があるからって阻害する指輪を用意しておいたのに、余計な判断でつけてこなかったのは本当に失敗だった。

 でも、まさかこの世界にタレントなんていう固有パッシブスキルがあったなんてねぇ。エルシモさんも話してくれなかった所を見るとこの世界では常識的な知識なんだろうけど、それだけに情報を得る機会を失していたのね。誰もが知っている当たり前の事なんて、こちらから聞きでもしなければ普通はわざわざ教えてはくれないもの。

 「とにかく。私は女神様ではありません。ですからお顔を上げてください」

 何時までもこのままと言う訳にも行かないし、とにかく領主を立たせようとする。でもねぇ、

 「そう仰られますが、先ほどそちらの執事の方がアルフィン様は神であらせられると教えてくださいました。もうここにいたっては私共に御身分を御隠しになられる必要はありません」

 ギャリソぉ〜ン! もう、本当に余計な事をしてくれるんだから。まぁ、彼らからしたら私は神様みたいなものだから仕方がないと言えば仕方がないのだろうけど・・・どうするのよ、この状況?

 「あなた様が御望みなら私はこの国を離れ、あなた様のもとに下りましょう。いや、願わくば、あなた様の国の末席に御加え下さい」
 「なっ!?」

 そう言うと、より一層深く、床に額をこすりつけるように頭を下げる領主。
 まったく、なんて事を言い出すのよ、この人は。仮にもその国の貴族、それも領地持ちの貴族を寝返らせるなんてそれこそ宣戦布告すると同義じゃない。そんな事が出来るわけがないじゃないの。

 はいそこ、さも当然のように頷かない! 思わずギャリソンの頭を叩きそうになるのをぐっと堪え、領主に言葉を掛ける。

 「そんな事を言うものではありません。たとえ私がどんな者であったとしても、あなたが国を捨ててしまっては今までの祖国と板ばさみとなってしまって領民が困ってしまいます。間違ってもそのような事を口に出してはいけませんよ」
 「はい、あなた様がそう仰られるのであればそういたします」

 よかった。ちゃんと聞いてくれたみたいね。でも、この状況が好転したわけじゃないのよねぇ。とにかく私が神様ではないと言う事を、この人に理解してもらわないと。

 「あと、何度も言うようですが、私は神様ではありません。あなたにタレントで見抜かれてしまった通りただの人間ではありませんが、だからと言って神様と言う訳でも無いのですよ。普通の人たちより強い力を持った人間だと思ってくだされば、それが一番正しい認識だと思ってください」
 「ではあなた様は、本当に女神様ではないと仰られるのですか?」

 よし、ようやく私の話を聞いてくれる気になってくれたみたいね。

 「はい。断言しますが私は神様ではありません。神のように奇跡を起す事も大地や人類、新しい種族を誕生させたりも出来ません」

 後ろから小さく「えっ!?」って声が複数聞こえた気がしたけど、それはここではスルーする。反応したら負けだ。

 「しかし、その執事の方が創造主と・・・」
 「それは忘れてください。比喩と言うか、言葉のあやですから」

 まったく、ギャリソンも余計な事を言ってくれたわね。ごまかすのが大変じゃない。

 「とにかく、私は神様ではないと言う事だけは理解してください。刺されれば血も出るし、首を落とされれば死にもします。特別な力を持つ神様ではないのですから」
 「では本当に女神様ではないと?」
 「はい、私は女神様ではありません」

 最後にもう一度強く肯定する。実際私は神様じゃないんだから、これだけは絶対に否定しておかないといけない。そうじゃないと交渉なんて出来ないからね。一方的にこちらの意見だけを言い、それを向こうが全て肯定するなんて状況は誰も幸せにならないし、そんな関係を作るべきじゃない。私はこの世界で遊びた・・・楽しく生活したいだけで君臨したいわけではないのだから。神様として崇められるなんてそんなの面倒なだけで少しも楽しくないわ。

 「解ってくださいました? これをちゃんと認識していただけないと、私も困ってしまいます」
 「はい、解りました。あなた様がそう御望みであれば私も神様ではないと言う体でこれから接しさせていただく事にします」

 ああ、ここまで言っても私が神様じゃないと認めてくれないのか。でもまぁいいわ。神様として崇めず、ちゃんと話をしてくれると言うのであれば私も妥協しましょう。

 「ありがとう。それでは何時までもそのように平伏されていては私も困ってしまいます。御顔を御上げになり、御立ちになられては頂けませんか?」
 「アルフィン様がそう仰るのであれば」

 そう言うと、やっと領主は平伏すのをやめ、立ち上がってくれた。よかった、正直あの体制で居られると私も気まずかったのよね。だって傅かれるのはそろそろ慣れてきたけど、流石にうちの子達でも平伏すなんて事は誰もしなかったから。

 あっ、ギャリソンにちゃんと釘を刺しておかないと。平伏すのは絶対ダメだって。さっきの表情からするとあれもいいなんて考えていそうだからね。

 「それではこれからは、私の事を都市国家イングウェンザーの支配者と言う立場の者として扱ってください。まぁ、国家と言っても所詮は都市国家。バハルス帝国のように大きな国からしたら小さな国ですし、一地方都市の領主くらいのつもりで接して下さればよろしいですわ」
 「とっとんでもない。アルフィン様相手にそのような事はいたしかねます」

 そう言うと領主は最敬礼の形をとり、そのまま頭を上げてくれなくなった。そしてその後ろでは騎士さんが傅いている。
 ・・・う〜ん、ホントこの会談、ちゃんと進められるか自信がなくなってきた。

 目の前で臣下の礼としかとれないような姿を見せる主従を前に、この先の事を考えて心の中で頭を抱えるアルフィンだった。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 と言う訳で、自分は女神であると言う認識を主従から取り除くのをアルフィンはあきらめました。以降カロッサ子爵はアルフィンがなんと言おうと「アルフィン様」と呼び、自分の事はカロッサさん、またはカロッサ子爵さんと殿とか様付けを絶対にさせなくなります。これからは彼を後ろ盾にして町に進出しよう思っているのに困ったものですね。

 後、途中でシャイナがアルフィン(と言うかマスターを)神様と思ってないか? とアルフィンが疑う描写がありますが、流石にシャイナは思っていません。彼女はプレイヤーキャラクターなので主人公がプレイヤーであり、元は人間だと知っているからです。でも同時に自分たちにとっては神に等しい存在であるとも思っているので、それが表面に出てしまった為にアルフィンに疑われてしまったと言うわけです。

 最後に来週の3連休ですが、水木一郎さんの45周年記念ライブがあるので東京へ行き、返ってくるのが10日の夜になってしまいます。なので来週の更新はいつもの日曜日ではなく、休み明けの火曜日になります。いつもよりも少しだけお待たせしてしまう事になりますが、よろしくお願いします。

 また、来週分は平日に書くことになってしまうので、いつもより少し短めになってしまうかもしれません。(それでも何とかしていつもの目標の半分である3000文字は超えるようにしますが)その時はなにとぞご容赦を。

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